「お肉屋さんになる」
それが僕の小さい頃の夢でした。
僕の父・下地徹は30年以上肉をさばいてきたプロフェッショナルです。
父さんは職人と呼ぶにふさわしく
頑張り屋で真面目で
たまに家族に混乱を起こす頑固さがある(笑) 仕事が好きな人です。
週1回か2回平日に休みがあって
それ以外は毎日店で働いています。
まとまった休みは年末年始の長くて5日。
どんなに体調が悪くても休んだり弱音を吐いたり態度には見せたりせず店に立ち続けています。
スーツを着て会社に行く多くのサラリーマンのお父さん達と違って
毎日店に立って肉を切り
お客さんと接しているお父さんは
子供の頃から自慢の父でした。
将来はお父さんのようにお肉屋さんになる。
それが小さい頃の僕の夢でした。
小学校の低学年の時
親の仕事について調べてくる。
という宿題がありました。
父親の仕事を調べて
その仕事をしていて楽しいと思う時はいつかという質問をするというものだったと思います。
父さんは
「肉を切っているのが楽しい」
「お客さんに感謝された時が一番嬉しい」
と答えました。
その時は特に何も思いませんでしたが
今思い返せば
父さんの仕事に対する姿勢や想いを
知らないうちに
僕は受け継いでいたようです。
仕事は違えど
あの時の父さんの想いが
今の僕の仕事に通じています。
僕の父さんは高校を卒業して
沖縄から単身東京に出てきました。
今でこそ沖縄に対するイメージは前向きなものが多い気がしますが
当時、沖縄というと
アメリカ領土から日本へ復帰して間もなく
いいイメージは多くなかったと思うし
“よそ者”という見られ方や
差別も多かったと思います。
そんな中で東京に飛び込んだ父さん。
そこで同じく沖縄から上京していた母さんと結婚して
子供が3人(姉2人と僕)生まれました。
そういう状況もあって
失敗したら簡単に沖縄に帰れるという退路もなかったと思います。
さらに5人兄妹の長男。
上に一人姉がいるけど責任感の強い男です。
多くの沖縄から出てきた友達が沖縄に帰って行く中で
母さんと2人東京で
負けられない闘いの中、
家族のために必死に働いてきたのだと思います。
いろんなプレッシャーや偏見がある中で孤独だったと思いますが
歯を食いしばってやってきたのだと思います。
とはいえそれでも父さんは人に恵まれ、
楽しいと思える仕事につけたし、
たくさんの人が父さんを慕っていたのできっといい性格だったんだと思います。
チャンスにも恵まれてきたと思います。
だけどそれは
自分が沈むわけにはいかないという状況の中で
全て自分の力で切り開いて行くっていう強い意志があったからこそ掴んだものなのかなと思います。
今となってはたまに家族に問題をもたらす父さんの頑固さもそういう人生を、
家族を連れて生き抜いてくるなかで身についてきたのかもしれません。
逆に父さんの頑固さがあったからこそ
僕たち家族は今いられるんだと思うと
僕が受け継いでしまった頑固さも悪くないなと思うし
父さんの息子でよかったなと本当にありがたく思います。
子供の頃学校から帰ってきて
裏手から店を覗くと
そこには真剣に肉を切る父さんの横顔やカウンターに立ってお客さんと向き合っている父さんの背中が見えました。
決して弱いところを見せない父の背中が僕には格好良く映りました。
たくさんの不安やプレッシャー、
将来への心配、希望、家族への想い、子供への想い、仕事への情熱、喜び・・・
いろんな想いの中で真剣に生きている。
そんな1人の男としての生き方を背中で見せてくれていたのだと今は思います。
だからこそ格好良く見えたのだと思います。
忙しくて学校の行事とか
試合もあまり来れなかったり
それが小さい頃は寂しくて
土日祝日父さんが家にいる友達が羨ましかったりしたけど
文字通り僕は父の背中を見て育ちました。
父さんも背中で僕を育ててくれました。
と、ここまで格好いい親子みたいに書いていますが
実際は会話という会話はほとんどがぎこちないです。笑
今では仕事から帰ってきては
毎日のように僕が出た試合やゴールシーンのハイライトを繰り返し見てくれいているのに
電話では聞きたいことを聞いてこない不器用な父さん。
何を考えているのかもよくわからない時があるけど
遠慮して聞けない息子。
でもそれでいいのかもと
最近思うようになりました。
何も言ってはこないけど
誰よりも自分の息子の活躍と成功を応援している父。
知らんふりしてるけど
結構気にかけている息子。
だけどお互い男として格好つけたくて
ぎこちない会話になってしまう。
それが僕たち親子なのかもしれません。
今日は父の誕生日。
そしてリーグ戦ホーム最終戦。
「バースデーゴール」をとか
「最終戦だからいい試合を」と考えると
自分はあまりうまくいかないので
いつもどーり
サッカーできることに感謝の気持ちを持って
ひとつひとつのプレーに集中していこうと思います。
それがきっと父が僕に示してきてくれたことで
僕が受け継いだことの一つだと思うからです。
今日も最後まで
あなたの貴重な時間を使って
読んでくれてありがとうございました。
Shimo